量子ビット系の時間発展を導入する。
ユニタリ発展
量子ビット系では、次のような時間発展が許される。
状態 ∣ψ⟩∈C2 を初期の量子状態、状態 ∣ψ⟩′∈C2 を終期の量子状態とするとき、ユニタリ行列 U∈C2×2 (UU†=I2) が存在して、次式を満たす。
∣ψ⟩′:==∣Uψ⟩U∣ψ⟩
この ∣ψ⟩↦∣Uψ⟩ という時間発展をユニタリ発展 (unitary evolution) と呼ぶ。
特に ∣ψ⟩∈C2 が単位ベクトルである、すなわち ∥ψ∥22=1 であるならば、次のように ∥ψ′∥22=1 となる。
∥ψ∥22=======⟨ψ′∣ψ′⟩⟨Uψ∣Uψ⟩⟨ψ∣U†U∣ψ⟩⟨ψ∣I2∣ψ⟩⟨ψ∣ψ⟩∥ψ∥221
射影測定による発展
量子状態を測定すると、ユニタリ発展とはまったく異なる、確率的な変化が生じる。
もっとも典型的なものは射影測定による発展で、次のような状態の変化が生じる。
量子状態 ∣ψ⟩ にある量子ビット系に対して基底 {∣ϕ0⟩,∣ϕ1⟩} による観測を行なって測定値 i∈{0,1} を得たとする。このとき、測定前の状態がいかなる状態であったとしても、測定後の状態は ∣ϕi⟩ に変化する。
∣ψ⟩↦∣ϕi⟩
よく、「測定が量子状態を変化させるという現象は、温度計が対象の温度を変化させてしまうだとか、浸透圧測定機器が浸透圧を変化させてしまうとか、そういった測定機器の性能に由来するものと同じようなもの」という説明がなされることがあるが、この言い方には語弊がある。「測定」という操作を行なうからには、測定機器と対象が必ず何らかの形で相互作用する。逆に言えば、もしも測定機器と対象が相互作用しないならば、それはもはや測定ではない。そして、この相互作用がどのようなものであれ、それは量子状態を変化させてしまう。つまり測定による量子状態の変化は、理論上根本的に避けられないのである。
よく使われるユニタリ行列
よく使われる有用なユニタリ行列をいくつか列挙する。
パウリ行列
σx:=σy:=σz:=[0110],[0i−i0],[100−1]
アダマール行列
H:=21[111−1]
ブロッホ球上の回転
Rx(θ):=Ry(θ):=Rz(θ):=cos(2θ)I−isin(2θ)σx=cos(2θ)I−isin(2θ)σy=cos(2θ)I−isin(2θ)σz=cos(2θ)−isin(2θ)−isin(2θ)cos(2θ),cos(2θ)sin(2θ)−sin(2θ)cos(2θ),exp(−i2θ)00exp(i2θ)
ブロッホ球上の回転は、その名の通りブロッホベクトルの回転を司る。たとえば初期状態 ∣ψ⟩=∣0⟩ に対して Ry(2π)を作用させたものを終期状態 ∣ψ⟩′ とすると、
∣ψ⟩′====Ry(2π)∣ψ⟩(cos(4π)I−isin(4π)σy)∣0⟩21(∣0⟩−iσy∣0⟩)21(∣0⟩+∣1⟩)
となる。この時間発展は、
ψ=sinθcosϕsinθsinϕcosθ↔∣ψ⟩=cos(2θ)∣0⟩+eiϕsin(2θ)∣1⟩
を参照すれば
∣ψ⟩:∣ψ⟩′:(θ,ϕ)(θ,ϕ)=(0,0),=(2π,0)
すなわち
ψ=001↦ψ′=100
と発展している。確かに、ブロッホベクトルが y 軸を中心に 2π だけ回転していることが確認できる。