2個以上の量子ビット系の合成系である多量子ビット系を導入する。
2-量子ビット系
2つの量子ビット系の合成系を2-量子ビット系 (2-qubit system) という。2-量子ビット系の状態は C4 上の単位ベクトル ∣ψ⟩∈C4,∥ψ∥22=1 として表される。
2-量子ビット系の状態 ∣ψ⟩∈C4 は、一般に C2 上の計算基底 {∣0⟩,∣1⟩} を用いて
∣ψ⟩==i1,i2∈{0,1}∑xi1i2∣i1i2⟩x00∣00⟩+x01∣01⟩+x10∣10⟩+x11∣11⟩
と表すことができる。ただし
x00,x01,x10,x11∈C,∣x00∣2+∣x01∣2+∣x10∣2+∣x11∣2=1
であり、また
∣00⟩=1000,∣01⟩=0100,∣10⟩=0010,∣11⟩=0001
であることに注意しよう。
2-量子ビット系の積状態
まず、次のような状態を考えよう。
∣ψ⟩=211100
これは、1-量子ビット系の2つの状態 ∣ψ1⟩=21[11] と ∣ψ2⟩=[10] のクロネッカー積の形で書くことができる。
∣ψ⟩=∣ψ1⟩⊗∣ψ2⟩
より正確にはテンソル積の形だが、ここではクロネッカー積として表した。
このように、2つの量子ビット系の状態 ∣ψ1⟩,∣ψ2⟩∈C2 のテンソル積の形で書けるような2-量子ビット系の状態 ∣ψ⟩∈C4 を積状態という。
以降、積状態にある2-量子ビット系の状態を
∣ψ1ψ2⟩=∣ψ1⟩⊗∣ψ2⟩
などと表すことにする。
2-量子ビット系のエンタングル状態
続いて、次の状態を考えよう。
∣ψ⟩=211001
この状態は、どのような ∣ψ1⟩∈C2 と ∣ψ2⟩∈C2 を用いても ∣ψ⟩=∣ψ1ψ2⟩ と書くことはできない。このような状態をエンタングル状態という。
エンタングル状態にある量子ビットは、積状態にある複数の2-量子ビット系の状態の、重ね合わせ状態であると考えることができる。
測定
2-量子ビット系における測定は C4 上の正規直交基底 {∣ϕk⟩}k∈{1,2,3,4} で表される。状態 ∣ψ⟩ に対して、この正規直交基底による測定を行なったとき、測定値 k を得る確率は
∣⟨ϕk∣ψ⟩∣2
である。絶対値の中の ⟨ϕi∣ψ⟩ を確率振幅という。
特に、
∣ψ⟩==i1,i2∈{0,1}∑xi1i2∣i1i2⟩x00∣00⟩+x01∣01⟩+x10∣10⟩+x11∣11⟩
という状態に対して計算基底 {∣00⟩,∣01⟩,∣10⟩,∣11⟩} による測定を行なった場合、測定値 k1k2 を得る確率は
∣⟨k1k2∣ψ⟩∣2===⟨k1k2∣i1,i2∈{0,1}∑xi1i2∣i1i2⟩2∣xk1k2⟨k1k2∣k1k2⟩∣2∣xk1k2∣2
である。このとき、測定前の状態がいかなる状態であったとしても、状態は
∣ψ⟩↦∣k1k2⟩
と変化する。
2-量子ビット系の一部に対する測定
さらに、2つの量子ビット系のうちの、一方の量子ビット系の状態のみを測定するような操作も考えることができる。
1ビット目に対して
たとえば
∣ψ⟩=i1,i2∈{0,1}∑xi1i2∣i1i2⟩
という状態にある2-量子ビット系の、1つ目の量子ビットに対して、C2 上の計算基底 {∣0⟩,∣1⟩} による測定を行なう場合、測定値 k1 を得る確率は
k2∈{0,1}∑∣⟨k1k2∣ψ⟩∣2===k2∈{0,1}∑⟨k1k2∣i1,i2∈{0,1}∑xi1i2∣i1i2⟩2k2∈{0,1}∑∣xk1k2⟨k1k2∣k1k2⟩∣2k2∈{0,1}∑∣xk1k2∣2
で与えられる。このとき、測定前の状態がいかなる状態であったとしても、状態は
∣ψ⟩↦=Z1k2∈{0,1}∑xk1k2∣k1k2⟩Z1(xk10∣k10⟩+xk11∣k11⟩)
と変化する。ただし Z は Z=k2∈{0,1}∑xk1k2∣k1k2⟩2=k2∈{0,1}∑xk1k22 なる規格化定数である。
2ビット目に対して
同様に、2つ目の量子ビットに対して測定を行なうとき、測定値 k2 を得る確率は
k1∈{0,1}∑∣⟨k1k2∣ψ⟩∣2=k1∈{0,1}∑∣xk1k2∣2
で与えられ、測定後の状態は
∣ψ⟩↦Z1k1∈{0,1}∑xk1k2∣k1k2⟩
と変化する。
多量子ビット系
以上の2-量子ビット系と同様の考え方により、n個の量子ビットの合成系であるn-量子ビット系 (n-qubit system) あるいは多量子ビット系 (multi-qubit system) を考えることができる。n-量子ビット系の状態は
∣ψ⟩==i1,i2,…,in∈{0,1}∑xi1i2…in∣i1i2…in⟩i∈{0,1}n∑xi∣i⟩
により表される。